スノードロップへの思い
僕のひいばあちゃんは、僕のことをとてもかわいがり、叱ることもない。
一緒に折り紙をしたり、日常について語ったり。
住んでいるところが離れていたから、たまに会えるひいばあちゃんは、僕の心の癒しの存在だ。
ひいばあちゃんは日記に日々の様々な些細なことから重要なことまで書き留める。
もともと年をとっていたひいばあちゃんは耳が遠い。
僕が尋ねたこととは全く違うことを言ってきたり、そもそも何も答えない時もある。
最初はそんなことも気にならかった。
僕はよくひいばあちゃんが乗る車いすを押しながら、朝露に濡れたスノードロップを眺め、少し摘んで笑顔で、ひいばあちゃんに渡した。
だんだんひいばあちゃんは耳が聞こえなくなっていった。
いよいよ普通に会話ができなくなったので、補聴器を買ってあげた。
でもひいばあちゃんはつけるのを拒む。
頓珍漢な答えをするのは相変わらず。
内心このやり取りにつかれている自分がいた。
そしてだんだん、僕のひいばあちゃんへの当たりはつよくなった。
ひいばあちゃんと一緒に住むほかの人たちも同ようにしゃべりかたがきつくなっていった。
前までは楽しかった散歩もなんだかワクワクを感じない。
自分の質問には答えないで一方的に話を続ける。
久しぶりに会った時はうれしいけど、その感情もすぐに薄れてしまう。
でもひいばあちゃんは常に笑顔で笑っている。
でも、自分のことを厄介者扱いしていることにはうすうす気づいているようなそぶりを見せることもあった。
僕は真顔で、庭に植わっている、いつしかひいばあちゃんにあげたスノードロップを窓からのぞいた。
その次の日、ひいばあちゃんが突然倒れた。
あまりにも突然の出来事に、みんな慌てて救急車を呼んだり、ひいばあちゃんに呼び掛けたりする。ひいたあちゃんは何も語らない。
しばらくは口をもぐもぐと動かしていたが、救急隊員たちがきたときにそれもとまる。
病院でそう言われた。
手術をしても意識を取り戻さない。
声をかけても返事がない。
ただそこにいるだけの植物状態。
そのまま数時間後にひいばあちゃんは死んだ。。。
今までのことをずっと後悔した。
なんであんな口のききかたしたんだろう。
何でもっとしゃべんなかったんだろう。
何でもっと遊ばなかったんだろう。
そう思いながら僕は、ひいばあちゃんの机の上にある日記を見た。
そこの最後に、
「ひ孫たちが変な笑みを浮かべたり、怒ったり、軽蔑したりしながら、スノードロップを渡してきた夢を見た。」
と記してあった。
その時僕は泣き崩れた。ここをの中でずっと謝った。
その時空から大粒の雨が降ってきた。
その雨は、庭に植わっているスノードロップをぐちゃぐちゃにした。
その雨はその日やむことはなかった。